日本の社会インフラを支える建設業界が、今、深刻な人手不足という大きな岐路に立たされています。
高齢化の波はとどまることを知らず、若手の入職者は減少の一途をたどる。
このままでは、日本のものづくりの根幹が揺らぎかねません。
この状況を打開する一手として、2019年4月に導入されたのが「特定技能」制度です。
一定の技能を持つ外国人材を即戦力として受け入れるこの制度は、建設業界にとってまさに”救世主”となるのでしょうか?
しかし、現場からは期待の声だけでなく、言語の壁や文化の違いによる戸惑いの声も聞こえてきます。
本記事では、データに基づき建設現場のリアルな実情を解き明かし、特定技能外国人受け入れのメリット・デメリットを徹底分析。
さらに、実際の成功事例から、受け入れを「正解」へと導くための具体的な方策を探ります。
目次
データで見る建設現場のリアルな実情
特定技能外国人の受け入れが是か非かを議論する前に、まず我々が直面している建設業界の厳しい現実を客観的なデータで直視する必要があります。
深刻化する人手不足と高齢化の波
国土交通省の統計によると、建設業の就業者数は1997年のピーク時685万人から2022年には479万人へと約30%も減少しています。
さらに深刻なのは、その年齢構成です。
就業者全体のうち55歳以上が約36%を占める一方で、未来を担う29歳以下は約12%に過ぎません。
この数字は、単なる労働力不足だけでなく、長年培われてきた熟練の技術やノウハウの継承が危機的な状況にあることを示唆しています。
X Mile株式会社が2025年12月に行った調査では、建設業従事者の8割以上が人手不足を実感し、7割以上が「技術継承が順調でない」と回答しています。
「2025年問題」が建設業に与えるインパクト
いわゆる「2025年問題」は、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となることで社会保障費が急増する問題ですが、建設業界にとってはより直接的な脅威となります。
現在、就業者の約4分の1を占める60歳以上の技能者が2025年以降に大量離職することが予測されており、国土交通省の試算では、2025年には建設業界で約90万人の労働力が不足するとされています。
この労働力不足は、工期の遅延や人件費の高騰を招き、ひいては日本のインフラ維持や防災・減災対策にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
特定技能外国人の受け入れ状況と推移
こうした状況を背景に、特定技能制度による外国人材の受け入れが急速に進んでいます。
出入国在留管理庁の発表によると、建設分野における特定技能在留外国人数は年々増加しており、人手不足解消への期待の高さがうかがえます。
厚生労働省が2025年9月に公表した2024年の「外国人雇用実態調査」結果によると、建設業で働く外国人労働者は15万2411人で、そのうち「特定技能」は4万6632人と、前年から倍増(100.5%増)しました。
これは、技能実習からの移行が進んでいることや、即戦力人材へのニーズがいかに高いかを示しています。
なぜ今、特定技能外国人が必要なのか?受け入れのメリット
深刻な人手不足に直面する建設業界にとって、特定技能外国人の受け入れは多くのメリットをもたらす可能性を秘めています。
メリット1:即戦力となる若手人材の確保
特定技能制度の最大のメリットは、一定の専門性・技能を持つ人材を確保できる点です。
在留資格を得るには、日本語能力試験と各分野の技能評価試験に合格するか、良好な技能実習2号を修了している必要があります。
つまり、基礎的な知識と技術、そしてコミュニケーション能力を備えた人材を「即戦力」として現場に迎え入れることが可能です。
また、来日する外国人材は若年層が多く、業界の高齢化という構造的な課題の解決にも貢献します。
若く意欲のある人材が加わることで、現場の活性化も期待できるでしょう。
メリット2:技能実習制度との違いと柔軟性
これまで外国人材受け入れの主流であった技能実習制度は、本来「技能移転による国際貢献」を目的としており、労働力確保を主目的とすることはできませんでした。
また、原則として転職が認められていないなど、制約も多くありました。
一方、特定技能は明確に「人手不足の解消」を目的とした就労資格です。
そのため、日本人と同等の業務範囲を担うことができ、同一業務区分内であれば転職も可能です。
企業にとってはより柔軟な人材活用が可能となり、労働者にとってもキャリアの選択肢が広がります。
さらに、熟練した技能を持つと認められれば「特定技能2号」へ移行でき、在留期間の上限がなくなります。
これは、企業にとって長期的な人材育成と定着を可能にし、外国人材にとっても日本で安定したキャリアを築く道を開くものです。
メリット3:職場の活性化と多様性の促進
外国人材を受け入れることは、単なる労働力確保にとどまりません。
異なる文化や価値観を持つ人材が加わることで、組織内に新たな視点や発想がもたらされます。
日本人従業員が外国人材に仕事を教える立場になることで、自身のスキルを見つめ直し、指導力が向上するケースも少なくありません。
ある建設会社の社長は、「最初は戸惑いもあったが、彼らの真面目な仕事ぶりやハングリー精神は、日本人社員にとって良い刺激になっている。現場のコミュニケーションを工夫する中で、チーム全体の結束力も高まった」と語ります。
多様性を受け入れる企業文化を醸成することは、結果的に日本人の若手人材にとっても魅力的な職場環境となり、企業の持続的な成長に繋がるでしょう。
「正解」とは言えない?受け入れのリアルな課題とデメリット
特定技能制度は多くのメリットをもたらす一方で、現場では様々な課題や困難に直面しているのも事実です。
これらのデメリットを直視し、対策を講じなければ、受け入れは「失敗」に終わってしまいます。
デメリット1:言語・文化の壁によるコミュニケーション不全
最も大きな課題は、やはり言語と文化の違いです。
特定技能外国人は一定の日本語能力が求められますが、現場で飛び交う専門用語や複雑な指示、安全に関する微妙なニュアンスまで完全に理解するのは容易ではありません。
現場で起こりがちなコミュニケーション・トラブル
| トラブルの例 | 背景・原因 |
|---|---|
| 「分かったふり」をしてしまう | 質問して怒られるのを恐れたり、「できない」と思われるのが嫌だったりする心理が働く。 |
| 指示と違う作業をしてしまう | 専門用語や略語が理解できず、自己判断で作業を進めてしまう。 |
| 危険予知(KY)活動に参加できない | 議論の内容が理解できず、形式的な参加になってしまう。 |
| 孤立してしまう | 休憩中の雑談の輪に入れず、悩みを相談できる相手がいない。 |
こうしたコミュニケーション不全は、作業効率の低下だけでなく、重大な労働災害に直結する危険性をはらんでいます。
また、時間やルールに対する価値観の違い、宗教上の習慣(礼拝や食事制限など)への無理解が、人間関係の軋轢を生むこともあります。
デメリット2:受け入れコストと煩雑な手続き
特定技能外国人を受け入れるには、様々なコストと手続きが必要です。
- 費用の負担:
- 人材紹介会社への手数料: 海外からの採用の場合、数十万円の手数料が発生することが一般的。
- 渡航費用: 本人が負担する場合もあるが、企業が一部または全額を負担するケースも多い。
- 支援委託費用: 登録支援機関に支援を委託する場合、月々数万円の費用がかかる。
- 住居の確保: 社宅の提供や家賃補助など、生活環境の整備にもコストがかかる。
- 手続きの煩雑さ:
- 建設分野特有の要件: 建設業許可の取得、建設キャリアアップシステムへの登録、JAC(建設技能人材機構)への加入などが必須。
- 建設特定技能受入計画の認定: 国土交通省から事前に計画の認定を受ける必要があり、申請から認定まで数ヶ月を要することもある。
- 在留資格関連の申請: 出入国在留管理庁への申請も必要で、膨大な書類作成と手続きが求められる。
これらの金銭的・時間的コストは、特に体力のない中小企業にとっては大きな負担となります。
デメリット3:安全管理と技術指導の難しさ
建設現場は常に危険と隣り合わせです。
安全指示が正確に伝わらない、危険性を正しく認識できないといった状況は、本人だけでなく周囲の作業員をも危険に晒します。
ある現場では、ヘルメットの顎紐を締めるという基本的なルールが徹底できず、ヒヤリハットが多発したという事例があります。母国では常識でなかったり、暑さからくる不快感が理由だったりしますが、根気強い指導が不可欠です。
また、技術指導においても、「見て覚えろ」といった旧来の指導法は通用しません。
一つ一つの作業手順とその理由を、図や写真、やさしい日本語を使って丁寧に説明する必要があります。
指導する側の日本人従業員にも相応のスキルと忍耐力が求められ、現場の負担が増大する側面は否めません。
失敗しないための羅針盤:特定技能受け入れ成功企業の共通点
多くの課題がある一方で、特定技能外国人を重要な戦力として活かし、企業成長に繋げている成功事例も数多く存在します。
彼らの取り組みには、受け入れを「正解」にするためのヒントが隠されています。
成功例1:徹底した日本語教育とコミュニケーション施策(A建設株式会社)
防水工事を手掛けるA社では、特定技能外国人が全国規模の技能グランプリで優勝するという快挙を成し遂げました。
その成功の背景には、徹底した言語教育とコミュニケーションへの配慮があります。
- 入社前の日本語教育: 採用決定後、オンラインで専門用語を含む日本語教育を実施。現場で使う言葉を事前に学ぶことで、スムーズな業務開始を可能に。
- 「やさしい日本語」の徹底: 日本人従業員向けに「やさしい日本語」研修を実施。指示は短く、明確に伝えることを全社で徹底。
- 図や写真付きマニュアルの活用: 作業手順書は写真やイラストを多用し、視覚的に理解できるよう工夫。
- 定期的な個人面談: 登録支援機関任せにせず、社長や現場責任者が定期的に面談を実施。仕事の悩みだけでなく、生活面の不安もヒアリングし、早期解決を図る。
成功例2:「仲間」として迎え入れる文化醸成とキャリアパスの提示(B工業株式会社)
左官・土間工事を専門とするB社では、外国人材の定着率の高さが強みです。
その秘訣は、彼らを単なる「労働力」ではなく、共に成長する「仲間」として迎え入れる企業文化にあります。
- 歓迎会や社内イベントの実施: 国籍に関わらず全従業員が参加するイベントを定期的に開催し、相互理解を深める機会を創出。
- メンター制度の導入: 年齢の近い日本人社員をメンターに任命。仕事の指導役だけでなく、日本での生活における兄貴的な存在としてサポート。
- 明確なキャリアパスの提示: 「特定技能2号」の取得を積極的に支援。資格取得のための講習費用を会社が負担し、将来的な現場リーダーへの道を提示することで、モチベーションを高める。
- 公正な評価制度: 国籍で判断せず、技能や勤務態度を公正に評価し、昇給や賞与に反映。努力が報われる環境を整備している。
このように、国籍を問わず社員一人ひとりの成長にコミットする姿勢は、これからの建設業界で生き残るために不可欠な要素です。
建設業界のDXを推進するブラニューのように、先進的な企業では、ブラニューが実践する独自のキャリアパス制度や手厚い福利厚生など、社員の成長を支えるための様々な仕組みづくりに積極的に取り組んでいます。
成功例3:地域社会との連携による生活サポート(C建設協同組合)
複数の企業が共同で外国人材を受け入れているC組合では、地域社会を巻き込んだ手厚い生活サポートが特徴です。
- 自治体との連携: 自治体が主催する日本語教室や国際交流イベントの情報を積極的に提供し、参加を奨励。
- 生活オリエンテーションの実施: ゴミの分別、騒音問題、交通ルールなど、日本の生活習慣について、入国後すぐに母国語でオリエンテーションを実施。
- 緊急時連絡網の整備: 病気や事故の際に、24時間対応できる多言語対応のサポートデスクを設置。
- コミュニティ形成の支援: 同じ国の出身者同士が交流できる場を設けるなど、孤立を防ぐための支援を行っている。
これらの成功企業に共通するのは、「外国人材をコストではなく、未来への投資と捉えている」という点です。
目先の労働力不足を補うだけでなく、彼らが安心して長く働ける環境を整えることが、結果的に企業の競争力強化に繋がることを理解しているのです。
2025年4月施行!特定技能制度の改正点と企業が取るべき対策
特定技能制度は、現場の実態に合わせて常に見直しが行われています。
2025年4月1日からは、企業の負担軽減や不正行為の防止を目的とした運用ルールの変更が施行されるため、受け入れ企業は内容を正確に把握し、対応準備を進める必要があります。
主な変更点の概要
| 変更点 | 変更前 | 変更後(2025年4月1日~) |
|---|---|---|
| 定期届出の頻度 | 3ヶ月に1回 | 1年に1回 に変更 |
| 随時届出の対象 | 雇用契約の終了、行方不明など | 病気や怪我で1ヶ月以上働けない場合なども対象に追加 |
| 在留申請時の書類 | 登記事項証明書、納税証明書など多くの書類が必要 | 一部の書類が提出不要に(ただし年1回の定期届出時に提出) |
| 定期面談の実施方法 | 原則、対面での実施 | 条件を満たせばオンラインでの実施が可能に(録画・保存が必要) |
今から準備すべきこと
これらの変更は、企業の事務負担を軽減する一方で、外国人材の状況をより正確に把握し、適切に支援する責任が求められることを意味します。
- 社内規程の見直し: 届出ルールの変更に伴い、社内の報告体制や管理フローを見直す必要があります。特に、1ヶ月以上の長期離脱を速やかに把握できる仕組みの構築が重要です。
- オンライン面談の環境整備: オンライン面談を活用する場合は、通信環境の整備や、面談内容を適切に録画・保存するためのルール作りが求められます。
- 登録支援機関との連携強化: 届出頻度が年1回になるからこそ、日常的な情報共有がより重要になります。支援を委託している場合は、定期的な報告会の設定など、連携を密にする工夫が必要です。
制度変更を正しく理解し、先んじて対応することが、今後の円滑な受け入れに繋がります。
まとめ:特定技能の受け入れを「正解」にするために
建設業界の未来にとって、特定技能外国人の受け入れはもはや避けては通れない道です。
深刻な人手不足と高齢化を乗り越え、日本のインフラを維持していくために、彼らの力は不可欠と言えるでしょう。
しかし、本記事で見てきたように、受け入れは決して簡単な道のりではありません。
言語や文化の壁、煩雑な手続き、安全管理の難しさなど、乗り越えるべき課題は山積しています。
特定技能の受け入れを単なる「労働力確保」と捉えるか、未来への「人財投資」と捉えるか。
その分水嶺が、成否を大きく左右します。
成功企業に共通しているのは、外国人材を「仲間」として尊重し、彼らが能力を最大限に発揮できる環境を整えようとする真摯な姿勢です。
徹底したコミュニケーション、公正な評価、そして日本で安心して暮らせるための生活サポート。
これらの一つ一つが、彼らの定着と成長を促し、ひいては企業の持続的な発展へと繋がっていきます。
特定技能の受け入れは、それ自体が「正解」なのではありません。
企業と外国人材が共に努力し、相互理解を深めていくプロセスの中にこそ、「正解」はあるのです。
この記事が、その「正解」を見つけるための一助となれば幸いです。
最終更新日 2025年12月24日







